NSX-GT FRテストカー
2007年シーズン終了後の12月、ツインリンクもてぎで1台のNSXがテストを行いました。
見た目は当時GT500に参戦していたNSXですが、このマシンはフロントにエンジンを搭載したFRレイアウトを採用。
NSXといえばホンダを代表する最上級スポーツモデルで、市販車もレーシングカーも全てミッドシップレイアウトとなっており、FRのNSXは世界中でこの1台のみです。
このNSXが生まれた背景には、2009年からGT500に導入される車両規則がありました。
GT500では2009年より駆動方式がFRに統一されることが決まっており、それまでFRレーシングカーのノウハウが無かったホンダが、スタディモデルとして制作したのがこのNSXでした。
マシン制作を担当したのはホンダ栃木研究所の若手スタッフ。当時のホンダGTプロジェクトリーダーである瀧敬之介氏が、研究所の若手スタッフに1からのクルマ作りを経験させる為に制作を指示したとされています。
ミッドシップのNSXと比べるとフロントノーズが長くなっており、フロント部の厚みもあることが分かります。
このマシンは図面も無く部品は現物合わせで組み上げられたそうですが、出来上がったマシンは・・・
- エンジンの載せ替えに6時間半もかかった。
- 車重は車両規則の最低重量より100㎏も重かった。
- エンジンから出される熱をNACAダクトによりわざわざ車内に送り込んでいた。
- プロペラシャフトの振動とジョイント部の緩みが頻繁に発生した。(緩みについては対策部品があるが、ホンダはその部品の存在を知らなかった。)
という様に問題点が多発。瀧氏からは「レーシングカーとして失格」と切り捨てられる程完成度の低いマシンでした。
ミッドシップの思考がFRでは全く通用しないことを痛感したホンダは、このマシンでテストを重ね、2008年夏までテストに使用されました。
その後ホンダは、もう1台のスタディモデルを経てHSV-010を生み出しました。
さらにこのマシンは2010年10月には当時GT500で採用が検討されていたKERSを搭載してのテストにも用いられています。
まとめ
失敗作とされたマシンですが、この失敗がホンダの財産となり最終的にはHSV-010のタイトル獲得に繋がりました。
実はFRマシンのテストを行っていた時期にホンダはGTから撤退する方向だったようで、テスト車両は社内上層部に内緒で制作していたという逸話があります。
マシンと社内事情と様々な苦難があっただけにHSVの活躍には開発陣も喜びは大きなものがあったことだと思います。