現在、GT300クラスの参戦車両はFIA GT3車両とJAF GT車両に分けられています。その中のJAF GT車両は基本的に日本車が用いられて来ましたが、中には外国車を使用しJAF GTマシンとして開発されたマシンも存在します。GT300クラスの強豪として活躍しているGAINERは、以前国産フェラーリとも言える独自開発のマシンを使用してレースに参戦してきました。今回はGAINERが投入していたユニークな国産フェラーリを紹介します。
※GAINERチームは過去には「Team GAINER」、「JIM GAINER」の名称でGT300クラスに参戦していましたが、この記事では「GAINER」の表記で統一させて頂きます。
F360
GAINERは2000年からフェラーリF355でGT300への参戦を開始。2001年はポルシェGT3Rで参戦しましたが、この2年間は顕著な成績は残せませんでした。
そこでチームは2002年シーズンの参戦を取り止めてニューマシンの開発に着手。2003年開幕戦にニューマシン、フェラーリF360を投入しました。
F360にはヨーロッパのFIA GT選手権に参戦するプライベーター向けのレーシングマシン「F360 GTC」が存在しますが、GAINERは「F360 GTC」とは全く異なるマシンを開発してきました。
このマシンのシャーシーはGT500のNSXも手掛ける童夢が制作しており、NSX譲りの空力性能を手に入れたマシンは「F360 GTC」よりもワイド&ローなスタイルとなっています。
車両形式 | GF-F360 |
全長×全幅×全高 | 4490mm×1925mm×1215mm |
車両重量 | 1175 s |
ホイールベース | 2600mm |
トレッド | F: 1670mm ×1620 mm |
トランスミッション | 6速シーケンシャル 後退1速 |
サスペンション形式 | F: ダブルウィッシュボーン プッシュロッド R: ダブルウィッシュボーン プッシュロッド |
ブレーキ | F: ベンチレーティッドディスク 6ポット ブレンボ製 R: ベンチレーティッドディスク 4ポット ブレンボ製 |
タイヤ | ヨコハマタイヤ F: 280-680/R-18 R: 280-710/R-18 |
ホイール | レイズ F: 10.5J-18 R: 11J-18 |
エンジン形式 | F131B |
エンジン仕様 | V型8気筒 |
排気量 | 3495cc |
ボア×ストローク | 85mm×77mm |
リストリクター | 27.9mm× 2個 |
最高馬力 | 380ps以上 / 7500rpm |
最大トルク | 38.5kg-m / 6500rpm |
オイル | TOTAL |
エンジンは戸田レーシングでチューンされた3.5リッターV8の「F131B」を搭載。
童夢がシャーシーを制作した為か、フェラーリのレーシングカーではありますが、このマシンは右ハンドルとなっています。
注目を集めて登場したF360は、デビューイヤーからポールポジションを2回獲得するなど、速さは見せましたが、トラブルもあり優勝には僅かに届きませんでした。
2レース制で開催された第4戦富士ではレース2で1位を獲得しましたが、総合順位では2位となっており、これが2003年のベストリザルトとなりました。
翌2004年はもう一台のF360を投入。現在と同じく10号車と11号車の2台体制になりました。するとTIサーキットでの開幕戦で10号車が優勝。これがF360としてもGAINERとしても初優勝となりました。
10号車をドライブした田中哲也選手&余郷敦選手の二人は最終的にシリーズランキングでも3位に入る活躍を見せました。
無限フェラーリ
2004年ランキング3位に入ったF360でしたが、GAINERはこのマシンが抱える問題点に頭を悩ませていました。それはエンジン「F131B」のパワー不足によるストレートスピードの遅さと燃費の悪さでした。
これらの問題点を解決するべく、GAINERチームは2005年シーズン途中にエンジンの換装を決定。
当初はF360の後継モデルであるF430のエンジン「F136E」を使用する予定でしたが、F430は当時発売から間もない時期であり、エンジンがFIAとJAFによるホモロゲーションを取得していなかった為、チームはGTAより「換装した場合は特認車両になる」との通告を受けました。
そこてチームは「どうせ特認車両になるなら…」とフェラーリ以外のエンジンに換装することに予定を変更。新しく無限のレーシングエンジン「MF408」へ換装を行いました。
「MF408」は4リッターのV8NAエンジンで耐久レースにおいて実績を挙げており、エンジンのパフォーマンスも燃費性能も申し分ないエンジンとなっていました。
2005年第5戦もてぎにて、2台の内の11号車に無限エンジンが投入され、童夢のシャーシーに無限のエンジンという「フェラーリの皮を被ったNSX」と言えるマシンが出来上がりました。(10号車はF131Bのまま)
成績は初戦のもてぎでは9位と不発でしたが、続く第6戦富士では2位表彰台を獲得。第7戦オートポリスでも5位に入ると最終戦鈴鹿では見事優勝を果たし、無限エンジンへのスイッチは大きな成果を残しました。
しかし無限エンジン使用についてフェラーリ本社からクレームが付けられ、翌2006年シーズンからは「F131B」に戻すことになってしまいました。
F430
2008年、GAINERは新しくフェラーリ・F430をGT300クラスに投入しました。
しかしこのF430、エントリーリストの車両型式の項目には「F360」と記載されていました。
車両名称は「F430」なのに車両型式は「F360」と記載されており不審に思った方もいるかと思います。
一見エントリーリストの記載ミスを疑いそうになりますが、この車両型式「F360」は間違いではありませんでした。
実はこのF430は、F430のエンジンと外板パーツを移植したF360だったのです。
このシーズン開幕から数戦はこのF430仕様のF360で参戦し、途中から正真正銘F430の新車を投入する予定でしたが投入は見送られ、翌2009年から新車がデビューしました。
このマシンもJAF GTマシンとして開発された為、右ハンドル仕様となっています。
毎戦上位を争う高いパフォーマンスを披露しましたが、優勝には一歩届きませんでした。さらにこの年はFIA GTマシンが台頭してきたシーズンであり、FIA GT2規定のF430が2勝を挙げる活躍を見せました。
この結果を受けて、GAINERも翌2010年からFIA GT2マシンのF430を投入。JAF GTマシンは1年限りの活躍となりました。
車両形式 | ABA-F430SC |
全長×全幅 | 4480×1925×1215 |
車両重量 | 1200 |
ホイールベース | 2600 |
トレッド (F/R) | 1920 |
トランスミッション | Hewland6速シーケンシャル |
クラッチ | APカーボン |
サスペンション F: R: |
ダブルウィッシュボーン ダブルウィッシュボーン |
ブレーキ F: R: |
ブレンボ6ポッド ブレンボ4ポッド |
タイヤ F: R: |
横浜タイヤ 280/710 R18 280/710 R18 |
ホイール F: R: |
レイズ 18インチ11J 18インチ11J |
エンジン形式 | F136 |
エンジン仕様 | S-GT仕様 |
排気量 | 4490 |
ボア×ストローク | |
リストリクター | 24.1×2 |
最高出力 | 300馬力以上 |
最大トルク | 40k以上 |
オイル | ワコーズ |
まとめ
近年のGT300はFIA GT3マシンが主流となっており、オリジナリティのあるマシンは少なくなっています。
JAF GTマシンはコストが投入の大きなネックとなっており、チームとしてはFIA GT3マシンを選ぶ傾向にあるようです。
しかしこの状況では、レース業界の物作りが衰退する可能性もあり、勿論コストを無視することは出来ませんが、今回紹介した国産フェラーリのようなユニークなマシンの登場も見てみたいと筆者は思います。